インサイダー取引でWSJ記者が有罪=1987年11月
ワシントンの米最高裁判所は1987年11月16日、有力経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の元記者に対し、株価に影響を与える情報を公表前に横流ししたインサイダー取引で有罪とした下級審の判決を支持して、上告を棄却しました。(1987年11月)
最高裁が上告棄却
裁判では、上場企業とは直接の関係はない記者も、インサイダ-取引として摘発されるのかが大きな争点となっていた。米最高裁は記者が「インサイダー」にあたるかどうかの判断を避けたものの、新聞社に属する情報を記者が無断で流用し、株式の値動きを先取りして利益を上げることを違法行為と認定した。
禁固1年6カ月が確定
禁固1年6カ月の有罪が確定したのは、フォスター・ワイナンス。ワイナンスは、1982年8月から1984年まで、ウォールストリート・ジャーナルでウォール街の情報を扱うコラムを担当していたが、その間に記事に載せる内容を知り合いの株オンラインブローカーに事前に教えていた。
このコラムは証券界へも影響があり、株価が動くことが多く、ブローカーは先回りして株を売り買いし、総額69万ドル(約1億円)のもうけを上げた。ワイナンスも見返りに3万1000ドルを受け取っていた。
証券取引法違反で起訴
ワイナンスも見返りに3万1000ドルを受け取っていたことについて、検察当局はインサイダー取引に当たるとして、証券取引法違反や米国特有の郵便・通信詐欺罪などで起訴し、下級審は有罪の判決を示していた。しかし、被告側はインサイダー取引の禁止規定が、「上場会社の役職員や証券会社員など個別企業の情報に直接、タッチできる立場の者の不正取引を禁じたもので、記者はこの範囲外」などとして、上告していた。
郵便・通信詐欺罪を適用
上告に対して、最高裁は新聞社に属する未公表の情報を、自らの利益のために使ったこと自体が、犯罪行為にあたるとの判断を示し、他人をだますためなどに郵便や通信手段(電話、テレビなど)を悪用することを禁じた郵便・通信詐欺罪で有罪とした。
インサイダー摘発の対象は大株主、経営者にはとどまらない
一方、内部情報を知る立場にある者がその情報を証券市場で悪用することを禁じた証券取引法の違反については、この規定が本来は大株主、企業経営者などを対象としたものであり新聞記者にも及ぶか、で判事8人の意見が4対4に分かれ最終的な判断は示されなかった。しかし、郵便・通信詐欺の規定を適用することで、インサイダー取引の摘発の対象が大株主、企業経営者にはとどまらないことがはっきりとした。
光ファイバーの特許をめぐる訴訟で、住友電工が米社に敗訴したというニュースをレポートします。(1987年10月)
光ファイバーの特許訴訟
ニューヨーク連邦地裁で争ってきた光ファイバーの特許をめぐるハイテク訴訟で、住友電気工業は一部敗訴し、構造特許を侵害していると判定されたと発表しました。
構造特許の侵害を認定
光ファイバーの国内最大手メーカー、住友電気工業は1987年10月10日、米国の大手ガラスメーカー「コーニング・グラス・ワークス社」(本社・ニューヨーク州)とニューヨーク連邦地裁で争ってきた光ファイバーの特許をめぐるハイテク訴訟で、一部敗訴し、構造特許を侵害していると判定されたと発表した。この結果、コーニング社の特許が切れる1964年5月まで、住友電工からの光ファイバーの対米輸出はもちろん、現地生産工場でも素線の販売用生産は不可能となる。
生産は継続可能
住友電工では素線を現地調達すれば、生産は継続可能で、売上高への影響は年間約4万100ドル程度としているが、光ファイバーでは日本の4~5倍の規模を持つ米国市場で、日本企業に大きな足かせがはめられたことになる。
製法は特許に抵触せず
光ファイバーの素線は内と外で光の屈折率に差を作り、内部に光を閉じ込めて送る構造になっているが、判決ではこの構造そのものをコーニング社の特許と判断、屈折率の差のつけ方が違うと争った住友電工の主張を退けた。しかし、製法については、コーニング社の特許の成立は認めたものの、住友電工の製法はその特許に抵触しないと判断した。
連邦控訴裁判所への控訴検討
構造については、日本国内では周知の事実とされ、影響はないが、米国内では住友電工製の素線はもちろん、その素線を使った光ケーブルの販売ができなくなる。日本の他メーカーも同じ訴訟を起こされるとこのままでは敗訴する可能性が強く、住友電工は、連邦控訴裁判所への控訴も検討している。
米国際貿易委員会(ITC)に提訴
コーニング社と住友電工、両社の争いは1959年3月にコーニング社が米国際貿易委員会(ITC)に提訴して以来のもの。ITCは1960年4月に住友電工は特許に抵触するが、産業上の被害はないとして、輸出の差し止めは認めなかった。住友電工では、大事をとって1960年春にノースカロライナ州にある子会社「SERT」(資本金2千万ドル)での現地生産に切りかえていた。
SERTの年間売上高
SERTの年間売上高は2千万ドル。そのうち光フィイバーは1千万ドルで、さらに素線部分は約400万ドル。住友電工では、素線を米国内で調達し、光ケーブルの生産を続ける一方、オプトエレクトロニクス関連機器や研究開発の比重をアップさせてしのぐ方針。コーニング社の特許は1964年5月までで、それ以降は拘束されない。
「代理母は乳児売買米」州最高裁が逆転判決=1988年2月
「ベビーM」事件の判決のレポートです。
「ベビーM」事件、金銭の契約無効
「代理母」によって生まれた赤ちゃんの養育権をめぐって争われている米国の「ベビーM」事件で、ニュージャージー州最高裁判所は1988年2月3日、代理母契約の合法性を認めた下級審判決を覆し、「乳児売買にあたり、無効」との判断を示した。米国内ですでに数百人の子が生まれ、現実が先行してきた「代理母」制度は、あらためて見直しを迫られることになる。
「代理母」とは
「代理母」は不妊の夫婦が費用を払って女性と契約、夫の人工授精によって赤ちゃんを産んでもらう制度。ところが1985年、1万ドル(約128万円)で契約した代理母の主婦メアリーベス・ホワイトヘッドさんが子の引き渡しを拒んだため、「父親」の生化学者ウイリアム・スターン氏夫妻が訴えて裁判になっていた。
7人の判事の全員一致で1審判決を破棄
1987年3月の1審判決は「代理母契約を結ぶのは基本的人権」として契約を有効とし、養育権をスターン夫妻に認めた。しかし、この日のニュージャージー州最高裁は7人の判事の全員一致でこれを破棄、代理母契約を「金銭による養子縁組、幼児売買を禁止した州法に反し、無効」と宣言した。
これによりベビーMとスターン氏の妻との養子縁組は無効となり、ホワイトヘッドさんの親権も回復された。しかし、養育権については1審通り、より安定した生活を送っているスターン夫妻に与えられ、ホワイトヘッドさんには訪問権が認められた。
代理母への金銭の支払いは違法
ウィレンツ裁判長は「不妊夫婦の、赤ちゃんを、との叫びは理解できるが、代理母への金銭の支払いは違法であり、おそらく犯罪的ですらある」としている。
「代理母」は法曹界でも合法性を疑問とする声
「代理母」については法曹界でも合法性を疑問とする声が強かったほか、代理母となる女性がつねに貧しいという現実から女性解放団体が、また倫理上から宗教界が強く反対してきており、いずれもこの日の判決を歓迎している。
裁判所が親殺しに情状酌量=1987年10月
アメリカでは、親を殺した子供たちに対する寛大な判決が目立ってきた。この裁判所の判断をめぐり、是非論争が起きています。
女高生に懲役6月、執行猶予5年
ニューヨークの女高生、チェリル・ピアソン(16)は、しばしば父親殺しを空想していた。そして、1986年2月、電気工の彼女の父親(42)は、自宅を出ようとしたところを、彼女の同級生、ショーン・ピカに22口径のライフルで5度撃たれた。
ピカとピアソンの2人は、殺人の罪を認め、ピカは懲役8~24年の判決を受けた。しかし、ピアソンは何年にもわたる性的虐待が自分をどうしようもない所まで追い込んだと主張、先週、懲役6月、執行猶予5年の判決が下った。
弁護士の法廷戦術
ピアソンは、毎年全米で約300件発生する親殺しの子供たちの一人である。ほとんどは父親が犠牲になっている。近年、この種の犯罪の発生は、全米の殺人事件全体の2%以下で、その数字には変動はない。しかし、若い殺人者を弁護する弁護士の法廷戦術は変わった。罪は簡単に認めるが、生命を脅かされるほどの虐待を受け、自己防衛のために殺したと主張する子供たちが年々増えている。
陪審員の同情
児童虐待が認められるケースが増えたため、ある専門家は『これらの訴えが、陪審員の間に同情を呼び起こすのだ』と指摘している。また、尊属殺人の専門家である弁護士は『裁判所がようやく問題の方に歩み寄ってきた。よほど忌まわしいことがなければ、子供たちは殺人なんか犯さない』と語る。
検察官は「デッチあげ」を懸念
一方、検察官の中には、ピアソン事件のような寛大な判決は、親への復しゅうを狙っている子や他の虐待を受けている子供たちをそそのかす結果となるのでは、と心配する声もある。もっと怖いのは、精神のバランスを失った子供たちの中に、親殺しの口実に虐待をデッチあげる者が出てくる可能性があるということだ。
消費者被害の発掘狙い、援助制度スタート 福岡県弁護士会=1990年10月
福岡県弁護士会(西山陽雄会長)は1990年10月1日、詐欺的商法やサラ金、欠陥商品などの被害に泣く消費者を対象に、被害額100万円以下の事件について弁護士への着手金の一部を負担する「消費者特定少額事件援助制度」を発足させた。「裁判でお金が戻っても、弁護士費用で消えるのでは」と心配する依頼者の負担を軽くして、気軽に相談してもらうのが狙い。担当弁護士らは「埋もれていた被害を掘り起こし、類似被害の拡大防止に役立てたい」と話している。
日弁連の報酬基準によると、民事事件を引き受ける際の弁護士の着手金は、最低で10万円。このため被害額が数十万円の少額事件の場合、事件終結時の報酬金や実費なども含めると、被害額を全額回収できても、かなりの部分が弁護士費用で消える計算になる。
援助制度は、着手金の10万円と、被害額の1割との差額を弁護士会の基金から支出する。例えば被害額が30万円なら、7万円が援助される。ただし、報酬金や実費に対する援助はない。
希望者は、福岡市の天神法律相談センターなど、弁護士会が福岡県内の4地区で運営する法律相談センターを通じて申し込む。「同様の事件が多発しているか」「救済に社会的意義があるか」などの条件を満たせば、援助が受けられる。
霊感商法や豊田商事事件、各種の先物取引事件など福岡県内の弁護団の寄付で、約1160万円の基金が集まった。霊感商法などの弁護団に参加している大神周一弁護士は「豊田商事など大きな被害が出た事件でも、最初の被害額は小さかった。悪徳商法に対しては、裁判などで早めに『社会的バツ印』をつけようとの反省から、援助制度が生まれた」と話している。